呪いの剣士/亡霊の王宮 BGM
-一人の鎧で身を固めた男が
虚ろな顔でなにかをつぶやいている-
[近衛兵]
この機械がせめて、生きていれば……。
誰かこの機械を直せるものがいれば
良いのだが……。
声をかける
[近衛兵] ……君は……!?……。
そうか、冒険者か。
まさか独り言を聞かれるとは
恥ずかしいところを見られてしまったな。
-先ほどまでの様子が嘘のように
男の顔に生気が宿った。-
君はこの壊れた次元移動機を修理することは出来ないだろうか?
恐らくこの機械こそ、
私の記憶を呼び戻すために必要なものだと思うのだが……。
記憶……?
[近衛兵] すまない、本来は自己紹介をするべきなのだろうが、私は記憶を失っているんだ。
自分の名前はおろか、
どうしてここに居るのかも私自身、まったくわからないんだ。
[近衛兵] ただ、この壊れた次元移動機を
みていると、不意に胸に、よくわからない痛みが走るんだ……。
だから、恐らくこの次元移動機に、
私が記憶をなくした理由があるに違いないと思ってね。
調べてみましょう
機械は苦手で……
どうも私はこの手のものが苦手らしい……。
-次元移動機の前に、綠の風が立つと、
次元移動機が低い起動音をあげながら起動し始めた……-
何もしていない? いや。
だとしてもこの機械が動いたのは
君が来てくれたお陰だ。 [近衛兵] さっき会ったばかりの君に
このようなことをいうのは心苦しいのだが……。
私がこの機械を使う暫くの間、一緒にいてもらえないだろうか? [近衛兵] 君が居なければこの機械は動かない。
ならば君にしばらく一緒にいてもらい、私はなるべく
早く、自分の記憶の手がかりを手に入れるように努める。 [近衛兵] ……どうだろうか?
やっと記憶の手がかりとなりそうなこの機械が動いたんだ……。
このチャンスをどうしても逃したくないんだ。
力を貸す
断る
君にはどれほど感謝をしても足りないな。
本当に助かるよ。 [近衛兵] さて、君にも準備が必要だろう。
この機会を使う準備ができたら私に話しかけてくれるかな? [近衛兵] 君か……。
私に何か用なのか?
次元の狭間を開く
何でもない
私の記憶を取り戻すために協力してくれるのか?
はい
いいえ
準備を整えて、まっていてくれ。
-次元移動機がある-
入る
やめておく
-先ほどの近衛兵がいたので声を掛けようとした瞬間……-
謎の声 :
ほう……これは珍しい。
アレを見ろ、アイツは生きた人間のようだぞ。
黒づくめの男 :
人間だと……?
どうしてここに人間がいる。
-そんな言葉と共に視線を感じそちらを見ると、
一人の黒づくめの男がこちらを見つめていた-
-しかし何故だろう。
黒づくめの男の顔と声に見覚えがある気がした。
どこかで会ったような気がする……-
謎の声 :
まあ待て。
この人間の始末はいつでも可能なんだ。
そう焦る必要もない。
それに……観客は多いほうがいい。
-驚いたことに、その声は
禍々しい気を放つ一振りの剣から聞こえていた-
黒づくめの男 :
……そういうことらしい。
ならば、お前に教えてやろう。
この世界はある男の記憶だ。
ゆえにお前がこいつらに干渉することは出来ない。
黒づくめの男 :
そこでこのバカな男の顛末を見届けるといい。
ただし、干渉できないのはこのバカな男にだけだ。
黒づくめの男 :
モンスターどもはお前に干渉することが出来る。
せいぜい殺されないようにするんだな。
クックックック……。
謎の声 :
人間は他人の不幸が好きらしいからな……。
蜜をたっぷり吸い込んだ頃にまた会おうじゃないか。
-そして男の姿が消えた途端、止まっていた時が
動き出したような感覚に襲われた-
国王 :
そなたを我が娘、ティアラ姫の直属の近衛兵として任命する。
そなたの卓越した剣術と忠誠心を信じよう。姫をよろしく頼む。
近衛兵 :
ありがたき幸せ。
……この命に代えましても必ずや姫をお守りすることを陛下と、
この剣に誓いましょう。
国王 :
幸多くも今、
この城を訪れている隣国の王子と我が娘との縁談もまとまりつつある。
この縁談がまとまれば、わが国は今後も末永く安泰であろう。
国王 :
娘も今はこの縁談にあまり乗り気ではないようだがきっと必ずや、
わかってくれる日がくるであろう。
一国の王女としてなすべきことは何かということを……。
近衛兵 :
……御意にございます、陛下。
おや? なにか外が騒がしいようですね。
……!? この匂いは血の匂い……。
国王 :
この音は、剣戟の音なのか!?
どうした! なにが起こっているのだ!? 誰か報告をするのだ!
近衛兵 :
陛下!!何かが起きていることは事実の模様……
ここに居ては危険です!! ひとまず、お部屋へお戻りください!!
-さっき見た黒づくめの男が
言っていたモンスターという言葉が脳裏を過ぎる。
今回の騒動と何か関係があるのだろうか……?-
国王 :
私のことは心配ない。
それよりもそなたは、娘を……ティアラ姫を守ってやってくれ!!
近衛兵 :
御意。……。
姫の私室は2階、急がねば……。
彼女にもしものことがあれば私は……。
若い男の声 :
そうだ……。
ティアラ姫の側で彼女を守ること。
それだけが私の幸せ、生きがいだった。
若い男の声 :
しかし、突然のモンスターの襲来。
これが全ての悲劇の始まりだった……。
‐時間が速く流れるような感覚の後、
北で何かが開くような音がした‐
ティアラ姫 :
この城にモンスターが入り込んだと、侍女から聞きました……。
それで、お父様はご無事なのですね?
近衛兵 :
ご安心ください。
陛下は無事です。
姫様もここではなくもう少し安全な場所に参りましょう。
このままではいつ危険な目にあうか……。
ティアラ姫 :
……私にとって安全で安心な場所は一つしかありません。
それは昔から、ずっと変わってはおりません……。
近衛兵 :
ティアラ姫……。
-ティアラ姫と近衛兵の間に主従関係を超えた空気と距離感を感じる-
ティアラ姫 :
……ごめんなさい。
モンスターが城を襲うなど、
今までなかったことが起きたせいでいやな予感がぬぐえないのです……。
なにか悪いことがおきそうで……。
近衛兵 :
姫様、不安を感じるのはよくわかります。
ですが姫様は、今後この国を背負って立つお方です。
どうか気をしっかりもち、隣国のあの方の、よき伴侶になってください……。
ティアラ姫 :
モンスターがこの城を襲った理由は定かではありません。
そしてこのような時に、
貴方にこのようなことを聞くのは不謹慎かもしれないのですが……。
ティアラ姫 :
……お聞かせください。
あなたにとっても私は、
顔も知らない隣国の殿方と結婚の契りを交わすことが望みなのでしょうか……。
私は……。私の望みはあなたと……。
近衛兵 :
……姫様。わ、私は……。
近衛兵 :
!? 騒音が……近い!!
-剣戟と人々の叫び声がすぐ側に迫っているのが聞こえた!-
近衛兵 :
姫様!
安全な場所までお送りします!!……参りましょう!
若い男の声 :
美しく聡明なティアラ姫……私は……私は……。
若い男の声 :
願わくば貴女と、永遠の時を過ごしたかった……。
隣国の王子 :
あの近衛兵は使えそうだ。
とりあえず彼には今回のモンスターの襲撃事件の首謀者という役でも担っていただこう。
ククククク。
‐時間が速く流れるような感覚の後、
北で何かが開くような音がした‐
国王 :
ここにモンスターを呼び寄せたのがまさかそなただったとは……。
一番信頼していたそなたにまさか裏切られるとは……な。
近衛兵 :
誤解です! 陛下!
私は……私は断じて陛下を、
この国を裏切るような行為はおこなっておりません!
国王 :
私もそなたを信じたい気持ちはある。
しかし、あの方が嘘をつく理由がない。
今一度、問おう。そなたに、その理由を説明できるのか?
近衛兵 :
そ、それは……。
国王 :
そなたのこれまでの働きに免じ命までは、奪わん。
我が娘もこのことを聞いてから床に伏した状態が続いている。
そなたの命を奪ったと知れば命を落としかねないほどに……な。
近衛兵 :
ティアラ姫……。
私の者のようなもののために……。
不吉な声 :
この場所に珍しく人間が来たと思えば……クックック。
忠誠心高き近衛兵よ、謀られたな。
近衛兵 :
誰だ……。誰が私に語りかけている……。
私のことは放っておいてくれ……。
不吉な声 :
後から来た身分で、随分なご挨拶だな。
我はこの世を支配するために生まれた剣、タルタノス。
魔剣タルタノス :
もし貴様がこの状況からの脱却を願うのであれば、我と契約をするといい。
さすれば命の危険が迫る姫君もまだ、助かるかもしれぬぞ?
近衛兵 :
契約? どうして、私が契約を……!
それよりも何故だ!! 何故、姫に危険が迫っている!!
魔剣タルタノス :
特別にもう一つ教えてやろう。
貴様を陥れた相手……それこそ、あの隣国の王子だ。
近衛兵 :
……隣国の王子……!? やはりあの時見た人影は……!
……クッ……! この鎖さえなければ……!!
魔剣タルタノス :
クックックッ。
まだ我が言葉が信じられぬようだな。
しかしそうでなくては、面白くない。
魔剣タルタノス :
では、今回だけ特別だ。
面白いショーを見せてやろう。
……我を手に取れ。さすれば、わかるだろう。
若い男の声 :
魔剣タルタノスとの邂逅……。
若い男の声 :
魔剣を手に取る私の心にあったのは果たして姫への想いか、それとも……。
‐時間が速く流れるような感覚の後、
南東で何かが開くような音が<した‐
近衛兵 :
……あなたが我が主に嘘を伝え私を今回の事件の首謀者として
仕立て上げたというのは本当ですか。
隣国の王子 :
随分と遅かったね。
君があまりにも遅いからうっかり問い詰めてきた僕の義理の父と家来を
殺める結果になってしまったじゃないか。
隣国の王子 :
しかし、人の命なんて安いものさ。
そう、君がその手に握っているその剣。
呪われし魔剣タルタノスに比べたらね。
……この国にそれがあると知ってから
僕がどれだけその魔剣を探し求めたことか……。
近衛兵 :
この剣を手に入れるためだけにあなたは国王を騙し、
私を陥れこの城にモンスターを呼び込み我らが同胞の命を奪い、
ティアラ姫まで、危険な目にあわせようとしたのか!?
隣国の王子 :
誰に聞いたのか知らないけれど君のいっていることは概ね正解かな。
ただ、僕だってできれば命を奪うなんて
野蛮なことは避けたかったんだよ?
隣国の王子 :
許婚だとかいうあの姫も近衛兵の君は
そんな人じゃないって泣きながら訴えてくるしさ。
あんまりにもうるさいからある場所に
一人で留守番してもらっているよ。
近衛兵 :
……そうか。これで納得がいった。
お前が私にいったことは正しかったようだな、魔剣タルタノス。
改めて……契約成立だ。
魔剣タルタノス :
……その言葉に嘘はないな?
貴様と我はいまこの時から魂をともにし、
我は貴様に力を与えよう!
貴様は我に血を捧げるのだ!
隣国の王子 :
なぜだ!? 呪われし魔剣タルタノスよ!
お前が仕えるべき主人はそいつじゃなく
この僕のほうが相応しいはず!!
なぜそれがわからない!?
近衛兵 :
お前に時間をかけるほど、暇ではない。
……私はティアラ姫を探す。
魔剣タルタノス :
愛しの姫君はどうやら牢獄に幽閉されているようだぞ。
隣国の王子 :
待てっ!! どうして僕を無視する!!
お前達も母上や父上のように僕を無能だと思ってるんだな!?
……いいだろう。僕の本当の姿を見せてやる!!
呪いの根源 :
グオオオオ……ッ!
見るがいい、これが僕の本当の力!!
魔剣を……世界を……
統べる新しい世界の王となる者!
近衛兵 :
新しい世界の王だと……?
……くだらない……。
私はそんなもの、興味はない。安心しろ。
呪いの根源 :
では、魔剣を置いていけっ!!
貴様には不要なもののはず!!
何よりその魔剣を使って、
あの女を助けようなど今更手遅れだ!!
近衛兵 :
姫に……彼女に……何をした……ッ!!
呪いの根源 :
あの女が悪いんだよッ!!
僕が魔物を呼び込んでるとこを見た上に、
誰にも殴られたことがないこの僕を殴ったんだ……
この僕を……。卑怯者っていいながらさぁ……?
許せない……許せないよ……。
近衛兵 :
……こんな奴に……こんな奴に……姫が……国王が……ッ!!
近衛兵 :
その小汚い姿を私の前に晒すな、失せろ……!
-近衛兵が隣国の王子に一太刀浴びせると
隣国の王子は跡形もなく消滅してしまった-
若い男の声 :
もっと力があれば、違った未来が待っていたのだろうか……。
若い男の声 :
私は残酷な運命を、理不尽な世界を、そして無力な己を呪っていた。
‐時間が速く流れるような感覚の後、
南西で何かが開くような音がした‐
ティアラ姫 :
貴方の腕に抱かれる日がくるなんて……
夢ではないのですね。
ゴホ、ゴホッ……。
近衛兵 :
ティアラ姫……!!
すぐに、腕の良い治療術師が来るはずです……!!
気をしっかりもってください……。
-ティアラ姫の顔に生気はなく、見事な装飾が施された
ドレスはドス黒い染みに染まっていた-
ティアラ姫 :
……どうしても貴方に、伝えたいことがあったのです……。
ゴホ、ゴホッ……。
……聞いて……くれ……ますか……?
近衛兵 :
姫……喋らない方が……。お体に障ります……。
ティアラ姫 :
大丈夫です……。
だから聞いて……ください……。
どうか、過ちを犯した私の父を許してください。
父も本心では、貴方のことを信じていたはずです。
近衛兵 :
そんな……身にあまるお言葉です……。
それに私は、国王に対し感謝はすれど、
恨むことなどこれからもございません。
ですからご安心ください。
ティアラ姫 :
貴方は本当に優しいのですね……。
私が落ち込んだときや辛いときいつも貴方は傍にいて慰めてくれた。
ずっと、そんな貴方と父とこの国で暮らしていたかったのに……ゴホッ。
近衛兵 :
姫……血が……血が……ッ! 誰か!!
誰か居ないのか!? 早く……早く姫を……姫の治療を……ッ!
お願い……だ……。
ティアラ姫 :
泣いて……いるのです……か?
……貴方に特別な気持ちを抱いてしまった私をどうか、
ゴホゴホ……許してください……。
叶わぬ気持ちと分かっていたのに……。私は王女失格です……ね……。
近衛兵 :
失格など!!
聡明で美しく姫様ほど王女に相応しい女性はおりません……。
私が……私が身分をわきまえず心惹かれたのは、
そんな姫様だからこそなのです……。
ティアラ姫 :
……。
……ありがとう。
その言葉を貴方から聞け……私は今、誰よりも……。
ティアラ姫 :
…………。
近衛兵 :
……姫? ティアラ姫……?
……私の……私の……私のせい……だ……。
私が守れなかった……。私が……守っていれば……!
近衛兵 :
……。いや、きっとこれは悪い夢だ……。
夢なんだ……現実なわけがない……。
さあ、姫様。起きてください。
こんなところで寝てはお体に差し障ります。
近衛兵 :
姫様? ティアラ姫……?
どうして……どうして目を開けてくれないのですかッ!?
何故、笑ってくれないのですか……!?
どうして……どうして……どうし……て……。
謎の声 :
諦めろ。これは現実だ。
貴様には必要だった姫もこの世界にとっては、
不要だったんだよ。だから死んだ。
謎の声 :
それなのに一方で、死んでも生まれ変わった者。
世界の力の均衡を維持するという大義名分で、運命を弄ぶ者。
強大な力を持ちながら、私利私欲のために使う者……。
謎の声 :
この世界はそんな不条理で溢れかえっているんだ。
どうだ? このような世界、存在する意味はない。
そうだろう?
冷たい声 :
姫を守れない近衛兵とは。末代までの恥だな。
若い男の声 :
やめろ、やめてくれ!! 私だって……私だってこれでも……。
冷たい声 :
あげくに、世界を憎むのか?
悪いのは全て、弱いお前だ。
冷たい声 :
いつまで魔剣などにたぶらかされ、現実から逃げ続ける?
若い男の声 :
いやなんだ!!
この現実を認めてしまえば、彼女は……皆は……本当に……!!
冷たい声 :
ほう?
その嘘のために、別の命が犠牲になってもいいというのか?
若い男の声 :
……そ、それは……。
冷たい声 :
お前は人を殺める。魔剣タルタノスという大義名分を盾にして……な。
若い男の声 :
……。
謎の声 :
……思い出せ!! 貴様の心の底から沸きあがる憎悪を!!
冷たい声 :
もう一つ。魔剣タルタノスが欲する血。
本当は……お前が欲しているんじゃないか?
謎の声 :
怒りを!! 虚無を!!
これは全て最初から決められていたこと……!
謎の声 :
貴様と共に、この世を血で染めるために……な!!
若い男の声 :
……否。タルタノスなど、決まりごとなど関係ない……
私は……私の意思で……殺すのだ。
若い男の声 :
思い出した……私は呪いの剣士サクライ。
自らの意思でこの世界を憎み、破壊するもの。
若い男の声 :
ケイオスも、ロキも、サラも……私の邪魔をするものは殺すだけだ。
黒づくめの男 :
まさか捨てたはずのものが
再度またこの世界へとノコノコ舞い戻ってくるとはな。
あのままおとなしく彷徨っていればよいものを。
黒づくめの男 :
これで全てというわけではなさそうだが……まあいい。
どうだ? 魔剣タルタノス。
絶望と恐怖にまみれモンスターへ変貌した者たちの血は。
魔剣タルタノス :
愚問だな、サクライ。
我が求める血はもっともっと
光と闇、生と死を経験した深紅なる甘美な血だ……。
魔剣タルタノス :
……ククククク。
そしてまた会ったな、人間。
他人の不幸の味はどうだ?
しかし、よい余興になるとここまで見逃してきたが……
そろそろ我慢の限界だ。
魔剣タルタノス :
あの人間の血を……我に捧げるのだ!
サクライ。
ここまで極上の香りがする血の匂いを漂わせた人間はかなり珍しい……!
サクライ :
タルタノスが興味をもつ人間……。
物珍しさから泳がしてみたが、ここまでのようだな。
……お前は……。
サクライ :
……その顔。
そうか、お前がアレをこの世界へと導いたお人よしの冒険者だったのか。
まさか……
サクライ :
そう、あの時の近衛兵が私だ。
正確には、私の中から追い出した感情という名のくだらない存在。
この記憶の残滓のようなもの。
それがお前の時代にどういうわけか、現れたらしい。
サクライ :
そして僅かに残ったくだらない正義感からお前に助けを求め、
ここに戻ってきたようだがそれは今、私が取り込み消滅した。
結局お前のやったことは、無駄に終わったということだ。
魔剣タルタノス :
サクライ。
無駄話をしている暇があるならあの者の血を早く……
早く我に捧げるのだ……!
サクライ :
焦るな、タルタノスよ。
……お前に問いたいことがある。
先ほど、お前を襲ったモンスター。
あれはこの国に住んでいた兵士などの元人間。
それらを斬った感想はどうだ?
答えない
答える
サクライ :
ほう? 答える気はないのか。
だが、結果は変わらない。
モンスターであれ、元人であれ、命を奪ったという事実はな!!
何にしろ……
サクライ :
この運命は他の誰でもない。
私が弱かったゆえの結果。
そしてその弱さが、
お前をこの時間のこの場所に招き入れたのだろう……。
はじめから強い人間はいない
サクライ :
その通りだ。
だからこそ私は、過去の自分の弱さを断ち切るため、ここに来たのだ。
しかし、今はそのお陰で私はよいことを思いつくことができたのだから、
お前にはひとまず、感謝しよう。
魔剣タルタノス :
サクライ、貴様なにを……。
サクライ :
タルタノスよ。
奴の血は極上の香りだといったな?
ならばもっとその香りの質が、
最高の状態で味わってみたいと思わないか……?
魔剣タルタノス :
ほう……? 貴様にはそうなる目算があるということなのだな?
良いだろう。貴様の企みに乗ってやろう。
サクライ :
ここでお前を殺してはその意味が失われる。
ゆえに今回は見逃すことにする。
お前は見知らぬ者のために、
ノコノコと時間移動までして助けようとしたほどだ。
サクライ :
もっと世界を知り、この世の不条理な理に絶望するがいい。
そして人の力の無力さを感じ絶望した時……
お前の血はさぞ、想像を絶するほど甘美な味となるだろう。
-それだけいうとサクライは音もなく闇の中に消えた。
その姿に国を愛し、一人の姫を守ろうとした近衛兵の面影はなかった……-
優しい声 :
私は感謝しています。貴方に会えたことを……。
若い男の声 :
ご安心ください。
これからはずっと、姫様の傍におります。
もう一人にはしません……。
謎の声 :
忘れるな、サクライ。
私と交わした血の契約を。
謎の声 :
私を満足させる血を見つけるまで、
貴様の魂は私のモノだ。クククククク……。
若い男の声 :
案ずるには及ばない。
一度交わした契約を忘れるものか。
若い男の声 :
我が名はサクライ。
我が名をゆめゆめ忘れるな。
再び、相見える日までな……。
‐周辺の風景が歪み始めた。
狭間から出なければならないようだ‐